大判例

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大分地方裁判所 平成12年(レ)30号 判決

控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

河野聡

被控訴人

国内信販株式会社

右代表者代表取締役

中村欣治

右訴訟代理人弁護士

岩崎哲朗

原口祥彦

清水立茂

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金七〇万六一〇〇円及びこれに対する平成一〇年一一月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人と乙山花子こと甲野花子(現在の氏名は丙川花子、以下「花子」という。)は、平成九年一二月一五日、花子が有限会社ヤマトマイカー(以下「本件販売店」という。)からダイハツ・オプティ六年式車(以下「本件車両」という。)を代金八五万円で購入するのに際し、以下の内容の立替払契約を締結した(以下「本件立替払契約」という。)。

(一) 被控訴人は、本件販売店に対し、本件車両代金八五万円を立替払する。

(二) 花子は、被控訴人に対し、右立替金と手数料二二万八五六五円の合計一〇七万八五六五円を、平成一〇年一月に二万二四六五円、同年二月から平成一四年一二月まで毎月一万七九〇〇円ずつ合計六〇回に分割して、毎月二七日限り支払う。

(三) 花子が、右分割金の支払を怠り、被控訴人が二〇日以上の期間を定めた書面で催告しても支払をしないときは、期限の利益を失う。

(四) 立替金と手数料の合計残金に対する遅延損害金の割合は年六分とする。

2  控訴人は、被控訴人に対し、平成九年一二月一五日、本件立替払契約に基づく花子の債務を連帯保証した(以下「本件保証契約」という。)

3  被控訴人は、同月三〇日、本件立替払契約に基づき、本件車両代金八五万円を本件販売店に立替払した。

4  花子は、平成一〇年一〇月二七日の支払を怠り、被控訴人が同年一一月五日到達の書面により、同月二五日までに支払うよう催告したにもかかわらず、同月二五日を経過しても右支払を怠ったため、期限の利益を喪失した。

5  よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件保証契約に基づく保証債務履行請求権(以下「本件債権」という。)により、前記立替金と手数料の合計残金九〇万六一〇〇及びこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である平成一〇年一一月二六日から支払済みまで約定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認め、同3の事実及び同4のうち催告のあったことは知らず、期限の利益の喪失の主張は争う。

三  抗弁

1  免責決定の確定

控訴人は、平成一〇年一〇月五日、大分地方裁判所で破産宣告(同年(フ)第六八一号。以下「本件破産宣告」という。)を受け、更に平成一一年三月一二日、同裁判所で免責決定(同年(モ)第一八〇一号。以下「本件免責決定」という。)を受け、同年四月二二日、本件免責決定は確定した。

2  車両引き上げによる弁済充当(予備的抗弁)

(一) 花子と被控訴人は、被控訴人が本件車両を引き取り、相当な価格をもって本件債務の弁済に充当する旨合意し、右合意に基づき、被控訴人は、平成一〇年四月三〇日、本件車両を引き取った。

(二) 本件車両の価値は五〇万円を下らない。

被控訴人は、車検証を取り戻すためにわゆる車金融に支払った二〇万円を控除すべき旨主張するが、本件立替払契約に基づく被控訴人の本件車両の所有権留保と車金融への譲渡担保とはいわゆる対抗関係になると解するのが相当であり、被控訴人が、車検証を紛失したとしてその再交付を受けて先に登録すれば車金融に優先するのであるから、被控訴人がした二〇万円の立替払は法的に不必要な出費であり、充当価格から差し引くのは相当ではない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は認める。

2  抗弁2の(一)は認め、同(二)は争う。被控訴人は、本件車両を三五万円で訴外有限会社ヤマトマイカーに転売したが、花子が本件車両を担保に供して車金融から金二〇万円を借りていたため、被控訴人は、転売に際し、本件車両の車検証を取り戻すべく、車金融に対して、金二〇万円を立替払いしなければならなかったのであるから、充当価格は、転売価格から二〇万円を差し引いた一五万円が相当である。

五  再抗弁

非免責債権該当事由―債権者名簿への不記載(抗弁1に対し)

1  控訴人は、大分地方裁判所に免責を申し立てた際、債権者名簿に本件債権を記載しなかった。

2  控訴人は、右当時、本件債権の存在を知っていた。

3  仮に、右2の事実が認められないとしても、次の各事実によれば、控訴人が、右当時、本件債権の存在を知らなかったことについて過失がある。

(一) 前記一2同旨

(二) 控訴人は、平成一〇年二月ころから同年一〇月五日までの間、花子と同居していた。

(三) 花子は、同年七月二一日、大分地方裁判所に免責を申し立て、債権者名簿を提出したが、右名簿には、本件債権の主たる債務が記載され、右主たる債務の保証人として控訴人が記載されていた。

(四) 控訴人の免責申立代理人と花子の免責申立代理人とは同一人物である。

六  再抗弁に対する認否及び主張

1  再抗弁1の事実は認め、同2の事実は否認する。

2  同3(一)ないし(四)の事実は全部認める。

なお、破産法三六六条の一二ただし書五号にいう「知リテ債権者名簿ニ記載セザリシ」とは、債権者に対して破産手続上の権利行使の機会を与えない意図であえて債権者名簿に記載しなかったことをいうものと解するべきであって、再抗弁は主張自体失当である。

七  再々抗弁―債権者の知情

被控訴人は、本件免責決定に対する異議申立期間経過前に、本件破産宣告を知っていた。

八  再々抗弁に対する認否

再々抗弁は否認する。

第三  当裁判所の判断

一  請求原因について

請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがなく、同4の事実中、平成一〇年一一月二五日が経過したことは当裁判所に顕著であり、証拠(甲二の二、三の一)及び弁論の全趣旨によれば、その余の請求原因事実を全て認めることができる。

二  抗弁1について

抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

三  再抗弁について

再抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

そして、証拠(甲一、乙一、二、四ないし六、七、八の各一、一〇の一、三、一一の一、証人甲斐俊治、同丙川花子、控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件免責申立ての約一〇か月前の平成九年一二月ころ、花子から本件立替払契約の連帯保証人となることを依頼されて了承し、被控訴人から保証意思確認の電話連絡を受けてこれを承諾したこと、控訴人は、花子の実父であり、平成一〇年二月から平成一一年三月まで花子と同居しており、花子が本件車両を使用していたことを知っていたこと、花子は、大分地方裁判所に、右同居期間中の平成一〇年五月、破産申立てを、同年七月二一日ころ免責申立てをしているところ、右免責申立てに際して花子が同裁判所に提出した債権者名簿には、本件債権の主たる債務が記載され、その保証人として控訴人が記載されていたこと(なお、控訴人の破産・免責申立代理人弁護士と花子のそれとは同一人物である。)、免責許可決定の約一か月前の平成一一年二月八日には、被控訴人の担当者甲斐俊治が控訴人方に出向いて訪問メモを投函したことが認められ、以上のとおり、控訴人が本件立替払契約の連帯保証を承諾した後、本件免責申立てをするまでの期間はさほど長期でもない上、右認定の各事実を総合すれば、控訴人は、本件免責申立当時、本件債権の存在を知っていたと推認でき、これに反する原審における控訴人の供述部分は採用できない。

なお、控訴人は、破産法三六六条ノ一二ただし書五号にいう「知リテ債権者名簿ニ記載セザリシ」とは、当該債権者に対する害意をもって記載しなかったことを指すと解するべきである旨主張するが、独自の見解というほかなく、採用することができない。

四  再々抗弁について

1  証拠(証人甲斐俊治)によれば、被控訴人は信用情報機関に加入していること、被控訴人では、通常、主債務者が破産した場合には、保証人の調査を行うことが認められる。

2  しかし、他方、証拠(甲三の二、七の一、二、乙二、証人甲斐俊治)及び当裁判所に顕著な事実によれば、被控訴人の方で本件車両の転売代金を本件立替払契約に基づく立替金等残金に入金処理し、分割金のうち平成一〇年一〇月分の一部まで充当するなどした結果、控訴人に対する請求の手続が平成一一年二月まで遅れたこと、被控訴人が控訴人に対し、平成一一年二月二日付けで、支払期限を同月五日とし、期限までに支払等がなければ法的手続を採る旨の訴訟決定通知書を送付し、被控訴人の担当者は、同月八日に控訴人方に出向いて訪問メモを投函し、その後も電話連絡を試みていること、本件訴訟は、本件免責許可決定後である平成一一年三月一七日に提起されていることが認められ、これらの事実に照らせば、前記1認定の事実から、被控訴人が控訴人の破産・免責を知っていたと推認することはできない。

五  抗弁2について

1  抗弁2(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  そして、証拠(甲二の一、四の一、二)によれば、被控訴人は、引き上げた本件車両を中古車買い取り業者二軒に査定させ、より高額の査定をした業者に三五万円で転売したことが認められ、右事実によれば、本件車両の評価額としては三五万円が相当であると認められる。控訴人は本件車両の評価額としては五〇万円が相当である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

ところで、被控訴人は、車金融に立替払いした二〇万円を右評価額から差し引くべきである旨主張しており、証拠(甲一、二の一、五、乙五、証人甲斐俊治、同丙川花子)によれば、花子が、本件立替払契約に違反して本件車両を車金融に譲渡担保に供して借り入れをしたこと、本件車両の車検証を車金融から取り戻すために要した費用として、被控訴人が二〇万円を出捐したことが認められる。

しかし、証拠(甲一、乙五、証人丙川花子)によれば、花子と被控訴人間では、代金完済まで本件車両の所有権を被控訴人に留保する旨合意がされている上、車金融は本件車両の担保を設定する際、その代金が立替払され、立替金の分割払い中であることを知っていたこと、また、車金融からの借入金は一〇万円であって、一部は返済されていることが認められ、右各事実によれば、車金融から本件車両の車検証を取り戻すために車金融に金銭を支払う必要性があったかどうかについては疑問があるし、支払った金額も車金融の債権額を超過している可能性があって、その相当性を認めることができない。したがって、右二〇万円を控除すべきではない。

六  結論

以上によれば、被控訴人の請求は、金七〇万六一〇〇円及びこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である平成一〇年一一月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと異なる原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・須田啓之、裁判官・脇由紀、裁判官・宮本博文)

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